突然ですが完璧なかごバッグの話をしてもいいですか。正確には完璧なかごバッグを探すという長い仕事が終わった話なんですけど。
かごバッグを持ちたいと思いつつ、これといったものに出会わない人生を過ごしてきました。時々トライしてみるも何だかしっくりこない。原因は主に2つ、荷物が入らないということと、素材に耐久性がないということです。
長い仕事の詳細は長くなるので控えましょう。とにかく、形を優先して物が入らない、容量で選んでワンシーズンでボサボサになる、そんなことの繰り返しだと思ってください。
荷物がたくさん入って引っかからないかごバッグはないものか。
シンプルで、ナチュラルすぎず、それでいてコーディネートに夏らしい軽さを加えられるかごバッグはないものか。
かごバッグのたましいはどこにあるのか
話は少しそれるんですけど、完璧なかごバッグを探すにあたり、かごバッグをかごバッグたらしめているのは何か、について考えることになりました。
新しいかごバッグを作るとき、方向性としては「素材を活かす」「形を活かす」のどちらかに分かれるんじゃないかと思うんですよ。前者はかごらしい素材、例えばラフィアやシーグラスを、かごバッグらしからぬ形に乗せるやり方で、わかりやすいところでは、かご素材のケリー型バッグがそうです。
しかし、この「かご素材の何か」は常にパロディ的かつ副次的で、オリジナルを超えられない存在です。だからダメというわけではないのですが、 「それはかごバッグなのか?」と問われれば即答しにくい。つまり、かごバッグのたましいはそこにないということです。
そんなわけで、私個人としては、かごバッグをかごバッグたらしめているのはフォルムだと結論づけました。オーソドックスなかごバッグの形である「開口部が広く、口に比べると底が狭い」フォルムを維持しつつ、「荷物が入らない」と「耐久性がない」をカバーしなければなりません。
まず底は四角が望ましい。かごバッグの容量が不足する最大の要因は、デッドスペースの多くなる丸底にあるからです。さらに容量を確保するなら、基本のフォルムを維持しつつ、開口部と底部の幅の差をゆるやかに収めたいところです。
そして耐久性。かごバッグに使われる天然素材は様々で、それぞれに特性が異なりますが、概ね硬い素材は折れやすく、柔らかい素材は飛び出しやすい傾向にある。
ではレザーの編み込み、いわゆる「イントレチャート」はどうかというと、耐久性があって雰囲気はいいものの、夏らしい開放感が損なわれるのが欠点です。物理的にも重く、見た目にも重厚感がある。自他共に認める「荷物多い妖怪」であるところの私が満足する大きさのバッグとなれば、尚更です。
大きくて軽くて底が四角で口が広くて、あとついでに布のライナーついてて口が閉じられて、丈夫で扱いやすくて長く使えるかごバッグ。
ない。
ないぞ。
(暗転)
出会いは突然やってくる
これという出会いのないまま何年かが経過し、長くかごバッグ欲を持て余していたのですが、今年の夏、ついに運命の女神が微笑みました。
まずはご覧ください。VASIC 「MARKET MINI」です。
VASICは2015年にニューヨークでスタートしたバッグブランドで、デザイナーは日本人の方なんだそう。ミニマルかつクラシックなデザインでありながら、決して普通には埋没しない強さがあります。好き。
ひと回り大きい「MARKET」もあって、最初はそちらを探したものの日本では展開がなく、海外でも売り切れていたので大人しくMINIを買いました。結論としてはMINIで十分だと思う。妖怪が言うんだから間違いない。
高さがあまりないせいか、さほど大きく感じませんが、まちが広いのでたっぷり荷物が入ります。「財布・ポーチ・ハンドタオル・折り畳み傘・ペットボトル・手帳・Kindle」の妖怪7点セットを入れてもまだまだ余裕。A4ノートもすっぽり。底が安定しているので、物があまり動かないのも地味にうれしい。トップはファスナー開閉で中身が見える心配がなく、開ければ視認性も良好です。
素材はどうかといえば、カゴ状のところはポリプロピレン(PP)、プラスチックですね。PP繊維は軽く、強度があり、水や汚れにも比較的強い、扱いやすい素材です。
細いテープ状の繊維がカゴのように編まれています。編みが密で表面がフラットなので、傷がつきにくく服を引っ掛ける心配もありません。ひと夏使って、さすがに飛び出しはできたものの、繊維が細いせいか、遠目にはあまり変化がないように見えます。四隅はこすれて毛羽立っていますが、これも私のように自転車のカゴに放り込んだりしなければ、もっと綺麗なままでしょう。すばら。
コンビのレザー部分は牛床革。革をスライスした後の「表面じゃないほう」ですね。高級皮革ではないのですが、厚みがあってしっかりしています。ハンドルはレザーの三つ折りで、端がボロボロになりにくい、耐久性の高い仕様です。すばらすばら。
このようにして、私の長い仕事が終わったのです。ありがとうありがとう。VASICはタイムレスなデザインが多く、今後も気になる存在です。シンプルながら一癖あるようなバッグを探している方は、のぞいてみてはいかがでしょう。
最近ではファーつきのものもあって、シーズンレスなアイテムになりつつあるらしいかごバッグですが、オールドな人間たる私は期限を9月いっぱいと決め、今年はすでに片付けてしまいました。次に出すのは5月あたり、出会いに時間がかかったぶん、長く付き合っていきたいと思っています。