ファッション誌のベテランスタイリストである著者が「少数精鋭のクローゼット」の作り方を具体的に教えてくれる、2015年の大ヒット本。待てど暮らせどKindle版が出ないのでうごうごしていましたが、文庫化されたので購入しました。これに限らず、ものを減らす指南系の本はことごとくKindle化してくれないだろうか。頼みますよ。
私はミニマリストを目指しているわけではなく、パリジェンヌは10着的なことにも興味はなく、しかしながら服があきらかに多すぎて管理しきれておらず、しばしば何を着たらいいかわからず呆然とし、何か買わねばという衝動に突き動かされて更に服が増えるという負のループに陥っております。
巷によくあるアドバイスの数々、「30代になったら質より量」「ワードローブのパターン化」「本当に好きなものだけ持つ」etc…どれも異論はないし、できたらそうしたいけど、いざ膨大なマイ在庫の前に立つと、何を捨てて何を買ったらいいのか、全然わからない。
この本は、服に対するマインドセットの再設定から始まり、どうしていらない服が増えるのかを検証し、具体的な捨て方&買い方指南へと進みます。適正枚数や価格帯についての提案も具体的。ツッコミどころがちらほら(加齢によって黒が似合わなくなるというくだりがあるのにご自身のワードローブは黒中心らしいとか)、考え方の合う合わないもありますが、アドバイス本の類は気に入ったところだけを参考にすればいいわけで、私は十分に得るものがありました。とりわけ、「たくさん服があるのに着たい服がない」という状態に困っている人にとっては、何かしら助けになると思います。
具体的に「どう捨てて、どう買うか」は本で読んでいただくとして、主にマインドセットの部分、「服との付き合い方」について、私が深くうなずいたりハッとしたりしたことなどを、いくつかご紹介していきます。
着回しはしなくていい
潔いですね。
雑誌なんかでは多彩なコーディネートを会得することがおしゃれとされてまして、「1ヶ月コーディネート」に代表されるようにとにかく上手に着回し、同じ印象を与えないように求められて、なんだかなあと思うんですよ。
そもそも、あらゆる服装は実用から趣味にかけてのグラデーションのどこかに存在しており、実用寄りの人もいれば趣味寄りの人もおり、個人の中でも実用寄りのジャンルと趣味寄りのジャンルがあったりするわけです。で、着回しっていう考え方はものすごく「実用寄り」で、それ自体を目的とすれば、だんだんおしゃれからは遠くなることは避けられません。
着回しの効率化を追求するなら、ベーシックの分量を増やすしかない。すると、そこには冒険も挑戦も存在しない、無味乾燥なワードローブが出来上がっていきます。ベーシックだらけもスタイルまで昇華できれば、また違う地平が切り開けるのでしょうけど、普通の人はなかなかそうはいきません。
削ぎ落とされたスタイルではない状態で着回しし、たくさん違うコーディネートを作ろうとすると、どうしても「いまいち」な服を混ぜざるをえない。そうして「いまいち」な日ができ、他人には「いまいち」な印象が強く残り、結果としておしゃれの平均値が下がっていく。著者はこれを「バリエーションの呪い」と呼び、このように語りかけてくれます。
「同じ格好してもいいんだよ、似たようなものばかりになってもいいんだよ、それが<あなたのスタイル>だからね。」
おしゃれな人とは「色んな組み合わせを考えられる人」のことではない。これだけで楽になる人、結構多いような気がします。
定番にまどわされない
「トレンドにまどわされない」ならよく言われていること(そしてなかなかできないこと)ですが、「定番にまどわされない」は新しくて、おお、と思いました。
マストバイベーシックの呪いとでもいうのか、ベージュのトレンチコート、白いシャツ、デニム、黒いパンプスetcetc…。これらは誰にでも似合いやすい無難なもの、最初に揃えるべきものとして提案されていますが、やっぱり他の服と同じように似合う似合わないがあるし、好き嫌いもある。いくらベーシックだろうがマストバイだろうが、自分の好きじゃないもの、似合わないものは持たなくていい。あくまで、自分だけの定番を見つけるべきなんですよね、おそらくは。
コストは「年数」より「回数」で決まる
自分にとってコストパフォーマンスのよさとは、「それを買ったら何回くらい着られるか」ということ。
「何年」ではなく「何回」です。引用:『服を買うなら、捨てなさい』地曳いく子 p109
著者はセールよりプロパー(定価)での購入を勧めています。その理由は、シーズン終わりにセールで買って数回しか着られないより、最初にプロパーで買ってシーズン中着倒した方が「安い」んじゃない?というもの。自分も変われば流行も変わる、「来年も着られるかどうか」なんてわからない。確かにそれはそうだ。
とはいえ実際には、予算の問題があり、そうそうプロパーに手を出せるものでもない。そしてやっぱり、買ったら少なくとも数年は着たいもんです。ファッションのプロならともかく、こちらはただの服好きの一般人。色々と限界がある。
などと思っていると、更なる金言が降りてくるんですよ。
「でもさあ、たくさん服があるのに着たい服がないわけでしょ。それって、いつか着る、合わせるものを買えば着られる、あったら便利かもしれないで服を買うからじゃない?そんで、新しい服を買ってもすぐ次の服が欲しくなるわけでしょ。それって、買ったものに満足してないからじゃない?」
ぬおお。めちゃくちゃ耳が痛い。その通りです。
セール品の買い方は、chapter6「買っていい服、ダメな服」でさらっと触れられています。私はなんだかんだでセールが好きだし、予算も限られているので、これからも重点を置いていくと思うのですが、安いとついつい備品感覚になってしまうくせについては、改善しないといけないなーと反省中。
「何を着るか」は「どう生きるか」
大げさだなあ、服ごときにそこまで考えてられないよと言われそうですが、結局そういうことではないでしょうか。自己満足と他人の評価のバランスをどうするか、自分自身をどこまで理解してどう表現していくのか、それらを決めて選んで初めてスタイルが確立され、結果として物が厳選され、削ぎ落とされて洗練される=おしゃれになる、ってことなのではないかと。
自分が本当に好きなもの、って意外とわかんないもんです。日々、多種多様な情報が、大きな声量で流れてくれば、自分とは違うという気がしても、内なる声はかき消されて、そうかな?乗らなきゃダメかな?とふらふら寄っていってしまう。
かといって、頑なになればいいというものでもない。人間、耳を閉ざせば簡単に時が止まります。「自分のスタイルがある」ことは「アップデートしなくてもよい」という意味ではない。特にファッションは生ものなので、定番であっても、どこかで更新のタイミングがやってくる。自分の中心を持ちつつ柔軟に新しいものを選び取れる、しなやかな軸を作りたいなあと、改めて思った本でした。
服を買うなら、捨てなさい (宝島社文庫)
地曳 いく子/宝島社