こんにちは。付箋の会の報告をします。付箋については昨年末の記録を読むと少しわかりますが、わからなくても人生においては全く問題がありません。しかしながら、この記事を読むにあたっては多少差し支える可能性があります。まわりくどいですね。ぜひお読みください。
どちらかというと付箋はだらだらしたい人間の集まりであり、行列に並んだり予約の取れない店の予約をがんばったりすることは稀で、しかし稀にはあって、具体的には年に1回ほど高めのハードルを越える気力をふんぬと捻出します。今回はエヌ氏ががんばりました。ありがとうエヌ氏。靴下ちゃんと履けよ。
アルザス @一乗寺
というわけで本日のお店は一乗寺の人気ビストロ、アルザスです。調べたところ付箋ラインでの初出は2016年7月でしたので、この会だけでも1年半以上行きたさを転がし続けていた計算になります。否応なしに高まる期待。ちなみにエヌ氏の「アルザスチャレンジ」こと予約の電話は3回めで成功しました。ありがとうエヌ氏。いいから靴下ちゃんと履けよ。
シュトーレンの備忘録でも触れたのですが、一乗寺というのは京都市の中心部からは少し外れて、交通の便もあまり良くないものの、市内屈指のラーメン激戦区、かつ恵文社を磁場としてオシャンティショップがじわじわ増えている通好みのエリアです。早めに着いてもぶらぶらできるので、安心してお越しください。
四条界隈で用事を済ませ、京阪から叡電を乗り継ぐルートで一乗寺入りしました。バスでも来られますが愛すべき俺たちのローカル線、叡電を推していきたい。一乗寺駅から5分ほど、住宅街を歩けば到着です。
入った瞬間「今極鶏にいますか?」とGoogle先生に聞かれるなどしました。いません。極鶏とは数件隣、濃厚スープが有名なラーメン店です。いません。
オーナーシェフと思しき男性がにっこりと迎えてくださいます。店内は落ち着いた照明としつらい、ざっと見渡して十数席、我々の他に3組のお客様ですでに満席です。まずは赤ワインのボトルをお願いし、なみなみと注ぎ、乾杯したところで既にエヌ氏が「アワード」と言うておりました。おい。まだ何も食べてないぞ。しかし気持ちはわかります。ここからおいしくないものが出てくるはずがない、そういう気配がむんむんする。
食べましょう。サービスのパンです。何も言わずに出てくる。しかも山盛り出てくる。外がカリッと、中がふわっとしつつもぐっと詰まった、ソースをつけるのに最適な構造です。ほんのり甘みがあって、これだけ食べても十分おいしい。腹ぺこの我々はワインを飲みながらパンをむしゃむしゃ食べて料理を待ちます。コースなら怒られるところですが、気兼ねしなくてよいこの雰囲気が嬉しい。パンうまい。
ほどなくしてパテがやってきました。見よ、この分厚さとマスタードの量を。ざっくりした食感の肉っぽさ満開のパテ。レバー味の強いパテがダメなアキ嬢も「これはうまい」と言っていましたので、パテの臭みが苦手な方でもおいしくいただけることでしょう。とにかくパンに乗せます。食べます。うまい。
サラダやおつまみなどの小皿をいくつかお願いしましたが、どれもおいしい。特にアンチョビバターはシンプルにアンチョビとバターなのですが、悪魔的にパンと酒がうまくなり、恐ろしいカロリーを素晴らしいスピードで摂取できてしまうのでお気をつけください。
お店の看板メニュー、シュークルートです。すっぱいキャベツことシュークルートと大きな豚肉、ベーコン、そしてジャガイモを煮込んだアルザス地方の郷土料理。ソーセージが入っているイメージだったのですが今回はなかったですね。お肉はほろほろと柔らかく、ジャガイモはほくほく、そこに酸味のあるキャベツが程よくアクセントとなって大変おいしい。味付けはしっかりめでワインがごぶごぶ進みます。幸せですね。そうですね。
ところですっぱいキャベツといえばザワークラウトじゃないですか。フランスにもあるのねと思っていたら、アルザス地方というのはドイツの国境近くで、文化的にも強い影響を受けているんだそうです。なるほどなるほど。
まだまだ食べたいのですがお腹がいっぱいになってまいりました。エスカルゴ、鴨のコンフィ、仔牛のカツレツ…。どれもめちゃくちゃおいしそうだったので次回は必ずいただきたい。なぜ食べていない料理がこんなにも脳裏に刷り込まれているのかといえば、他のテーブルに運ぶ際、さりげなく、しかし確実にわざわざ、シェフが高速で我々の目の前に皿を通過させていくからです。なんたるサブリミナル配膳。おそろしや。
グラスワインを追加してお腹を落ち着けたのちデザートをオーダー。まんまと先ほど通過した通りの組み合わせで注文してしまいました。サブリミナル配膳すごい。のんびりいただいてお会計、ひとり3300円でございました。なんたるリーズナブル。ありがたや。
シェフについて、もう少し書いておきたい。アルザスのレビューにはしばしば彼についての記述があり、訪問によってその「書かざるを得ない」圧倒的な存在感を目の当たりにし、深く納得したわけなのです。と同時に散見される「気さく」「お茶目」などの表現は正解ではあるものの、実態はそこから想像される枠を遥かに超越した何かであるとも述べておきたい。言うなれば熟練した芸の域、それもかなり安定した天丼芸というやつです。
開店18時、閉店23時ですが最終入店は20時半。この日は1回転だったように思います。調理と接客を一人でこなされているので大変お忙しい。しかし、それを全く感じさせず、テーブルの間をくるくるとまわりながら、適度な目配りと気配りがなされます。
そしてキッチンからは鼻歌、隙あらばウィンクを投げ、キッスを投げ、ダジャレをばりばりと投下するシェフ。我々は否応なくそのリズムに巻き込まれ、完全に降伏し、おいしいものを食べながらげらげら笑うしかなくなり、笑いながら「店は人」なんだなあとしみじみするのです。いい店だなあ。
近隣の方ならふらっと寄られるのもよいでしょうが、場所がら予約がおすすめです。平日なら比較的取りやすそう、土曜か祝日なら1ヶ月以上かかるかも。しかし、待つだけの価値は十分にあると保証します。つるっと電話しましょう。忙しい時間帯は電話にお出にならないので、遅めにかけると繋がりやすいです。それから、たっぷりした盛りなので、4人ほどいると色々食べられます。お酒が好きな人と行くとなお楽しいでしょう。行きましょう。我々も既に行きたい。
時折みぞれの降る寒い日でしたが、心身ともにほこほこと満たされ、再訪を誓いながら店を後にしました。ごちそうさまでした。
Alsace
京都市左京区一乗寺西閉川原29-9
定休日:日曜日
営業時間:18:00~23:00(最終入店20:30)
アクセス補足:バスでお越しになる場合、206号はやたら混むうえに降りてからも遠い。31号は降りたらすぐですが1時間に1本しかない。河原町からなら京都バスという手もあるんですけど要するに叡電はいいぞ。